摘要
老年者の身体的特徴は, 一人が複数の疾患・病態を持つことであり, 老年者尿失禁も他病態と共存すると共に, 複数の尿失禁起因疾患による複数の尿失禁の型を基に生じていることが多い. また, 常に寝たきりの状態になると, 尿失禁と大便失禁が必発する. 老年者尿失禁に対する安易な医学的介入 (加療) は, ことに寝たきり絡みの場合, 薮蛇的結末を招きやすく, おしめ・バルンカテーテルと尿バッグの使用が, 無難な解決方法として選ばれ, その後長期にわたって用いられることとなる. 寝たきりの場合, その間に寝たきり廃用症候群が発来・進行し, 本人の活動性を低下させ, 介護量を増加させ, 社会資源の消費量を膨らませ続ける. そして今日, 痴呆と共に, 寝たきりと尿便失禁に対する老年者介護は, 一大社会問題となるに至っている. 他方, 持続する老年者尿失禁の原因群は, 数種類の共存疾患・病態群であることが多い. それらと, 四種類の尿失禁の型との関係の整理, 排尿に関する男女差の理解, 解決順序の決定と実行, および調節状態の把握, が適切であれば, 効果的で安全な尿失禁改善の可能性が, ことに女性の場合, 大きく存在する. 寝たきり絡みの尿便失禁の解決には, 適切な排泄姿勢の受動的な確保が前提条件となる. その姿勢は, 仰臥位やファウラー位 (半坐位) ではなく, 通常の和式・洋式排泄姿勢および体幹前傾姿勢である (Fig. 6c). 寝たきり絡みの尿便失禁の解決に役立つ体幹前傾姿勢, 並びに腹臥位は, 尿便失禁ばかりでなく, 寝たきり廃用症候群の全てを予防し, すでに生じている場合は, 短期間に改善し, 時には治癒もさせる事実が次第に明らかになってきている. さらに体幹前傾姿勢も取れる生活台は, そのような効果を持つ上, 車椅子が用いられてもなお介護が必要な老年者に自立の機会を理論的に与え得る. これらの姿勢と器具がリハビリテーション・看護・介護の分野で活用されれば, 現行の老年者介護の抜本的解決方法の一つとなる可能性が大である.