作者
Kenji Ogawa,Yoshiyuki Okumura,Toshiaki Nikai,Osamu Tarumi,Taku Nagao,Yuko Saitou
摘要
当院で経験した慢性型肺アスペルギルス症 (アスペルギローマ, 慢性壊死性肺アスペルギルス症) 59症例の臨床的検討を行なった. 本症の診断には, レントゲン画像, 喀痰検査, 血清学的検査が主に行なわれていた. 画像所見は, 菌球型が47%, 空洞壁肥厚型が32%を占めた. 喀痰培養で検出した菌は, A. fumigatus が78%, A. niger が13%, A. flavus が2%であった. 血清学的検査では沈降抗体陽性率が81%, 抗原陽性率が11%, β-Dグルカンが基準値を上回った症例が39%であった. また, 臨床症状として, 血痰, 喀血が高頻度に認められた. 治療法は, 抗真菌剤の全身投与, 局所投与が行われていた. 薬剤としては主にアムホテリシンB, イトラコナゾール, ミカファンギンが使用されていた. この他補助療法として, エラスターゼ阻害剤であるミラクリッドの併用やアレルギー的要素が関与していると考えられる症例にはステロイドの併用も行なわれていた. ミカファンギンを使用した慢性壊死性肺アスペルギルス症の6例は, 全例に画像改善が認められた.病原因子としてアスペルギルス属の産生するエラスターゼに注目していたが, 菌自身が産生するエラスターゼ阻害物質を発見した. 各種アスペルギルス属の臨床分離株の培養上清についてスクリーニングを行ったところA. fumigatus は12株中5株, A. flavus は2株中1株の培養上清に強い阻害活性が認められた. A. niger では弱い阻害活性を認めた. A. fumigatus 5株とA. flavus 1株の培養上清 (粗阻害物質) は熱に安定で, ヒト白血球エラスターゼにも阻害作用をみとめたが, ブタ膵エラスターゼには阻害作用をほとんど認めなかった. 今後, 臨床応用を目指してさらなる研究を継続して行く予定である.